森のキモチ「アイヌネギ‐ギョウジャニンニク‐ミドリ」


「シンちゃん、少しずつミドリが増えてるね」
「そうだね。この頃の緑はかたまって出てくるでしょ」
「かたまって?」
「群生と言って、集まって生えてるんだ。ほら、あそこの濃い緑はフッキソウの集まり。明るい緑のニョキニョキと出ているのがバイケイソウだね」
「なんであつまってるの?」
「土の中で根っこがつながっているのが多いからなんだ。根っこがつながっていると、いきなり遠くには出て来れない。少しずつ広がっていくから集まって生えるんだ」
「ネッコがつながってないのはないの?」
「あるよ。そういうのもこの春先は集まって出てくる。冬の間に凍った土が融けて、水が浸り始めるところから緑が出てくるんだ。山は緑の出てくる場所の順番が決まってるんだ。太陽さんが良く当たる沢から始まって、影の笹わらで森の全てが緑になる」
「ふーん。たいようさんと水がミドリの順番を決めてるんだ」
「そうだね。集まって生える種類が多いのも春先の特徴だね。あそこに濃い緑のニョキニョキがある。もう、少し葉っぱが開いてるのもある。ギョウジャニンニクだ」
「アイヌネギだね。採って行こう」
「そうだね。今年の初物のギョウジャニンニクのデビューだ」
「なんでシンちゃんはギョウジャニンニクって呼ぶの?」
「リッちゃんは何でアイヌネギって呼ぶと思う?」
「アイヌの人が食べてたから」
「そうだね。ギョウジャニンニクは、山で修行していた行者が食べてたからそう呼ばれたんだよね。だから僕も平気でアイヌネギって呼んでた。何にもアイヌを悪く言ってないないと思ってたんだ」
「そうでしょ」
「でも、それだけじゃなかったんだ。アイヌネギはアイヌのように臭いからアイヌネギって呼んでる和人もいたんだ」
「アイヌネギは臭いけど、アイヌって臭いの?」
「それは何とも言えない。今のアイヌは臭くないけど、昔のアイヌはわからない。匂いは生まれ持ったものもあるから、和人が違う民族のアイヌを臭いと悪く言うことは考えられるけどね。でもそれは差別につながる。昔は差別が当たり前にされていた。大人から子供まで」
「子どもまで?」
「ネギまで差別されたんだ。アイヌネギって。僕は差別しているつもりはなかったんだけど、差別して呼んでる人もいたと聞くと、やっぱりアイヌネギって呼びにくいよね。でもテレビでも明るくアイヌネギって呼ばれるようにもなってきたようだから、差別の思いは消えてなくなれば良いと思うよ」
「リホはアイヌネギ大すき。」
「僕もアイヌネギが大好きだ。僕は、森と生きたアイヌのためのネギだからアイヌネギと呼んでるんだけど、いちいち説明できないでしょ。面倒くさいからギョウジャニンニク」
「めんどくさい?」
「ごめん。ごめん。これからアイヌネギって呼ぶよ。行者がいなかった北海道でギョウジャニンニクはないよね。やっぱり、アイヌが愛したネギだからアイヌネギだよね。こっちの方が面倒くさくない」
「でしょ」

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